3月9日(火)の弊社主催オンラインセミナーで横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の栗栖裕先生にお話しいただいた、「国際的な科学技術系人材の育成と評価の実践」について紹介していきます。
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校は2009年に開校。1学年6クラスあり全クラスが理数科で、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定校として11年目を迎えます。4年前には附属中学が開校しました。SSHとしての研究開発課題は「知識と智恵を連動させ、世界で活躍する科学技術人材を育成する“横浜IDEALS”プログラムの開発と普及」です。IDEALSはInterDisciplinary Empowerment Approach for Leading Scientists(先端サイエンティストのための教科の枠を越えた育成法)の略語で、西村圭一先生(東京学芸大学 教授)のお話にもあったように、「予測のつかない事態や未知の状況」に対応する力の育成を目指しています。
1年次はサイエンスリテラシー(課題探究型の授業、以下SL)Ⅰを必修2単位(総合的な探究の時間)、2クラス単位で実施、共通プログラムで探究の基礎を学びます。2年次のSLⅡも必修2単位(課題研究)、2クラス単位ですが、6分野24コースに分かれ個人研究と年3回の発表、レポート提出を行います。3年次のSLⅢは選択科目で、SLⅡの研究を深め学会等での発表を行うほか、横浜市大での研究発表を通じて指定校推薦と同様の手順で進学できる道も用意されます。研究成果は、国公立大学の推薦入学やAO入試対策にもつながっています。
本校は進学指導重点校で、教科書の指導を確実に行う必要があり、一つの教科で課題探究の全てを行うのは無理がありますが、「SLを各教科で活用する」ことができています。例えばSLⅠの「気象のサイエンス」(気象の基礎知識を学び最終的に天気予報を行う)を活用し、国語の授業で発表練習を行いディスカッションやプレゼン能力を高めたり、「SDGs×サイエンス」で、現代社会の授業と連携してSDGsへの理解を深めた上で、共通の夏休み課題を設定し生徒に取り組ませたり、といった具合です。
これが可能になっている理由には、SSH課題研究を統括するサイエンス・グローバル事務局が、英語科の主任(私)を含み5教科すべての教員13名で構成されていることが挙げられます。また、SLⅠの授業は理科教員2名が中心となって進めますが、ほぼ全教科8名の教員が10名ずつ生徒を担当し、取り組み具合、ポートフォリオ提出状況などを評価します。その結果、SSHの課題に学校全体で取り組むことになり、他教科との連携授業のアイデアも生まれてきます。
一方で、教員の理数分野に関する専門知識には差があり、公平な評価ができないという課題もありました。また、「探究の成果を可視化するためにも、学会やコンテストを意識したテーマ設定をするべきだ」と考える教員がいる一方で、「失敗も含めた研究プロセスこそが大事だ」と主張する教員もいます。議論を深めるなかで、課題発見力、探究心、粘り強さなど数値化しにくい非認知能力を測定する外部指標が必要だという結論に至り、「Ai GROW」の導入を決めました。
保護者にとっての費用対効果、クラス担任の負担などを考慮しましたが、スマートフォンやタブレットで個別に受検できること、個人面談前に受検すれば生徒と保護者へ効率良く効果的なフィードバックができるであろうこと、などが採用の決め手となりました。4月からスタートするところですが、期待しています。
生徒を見ていると、どうしても一つの目標を追い求める傾向があります。例えばSDGsなら17のゴールの一つを達成すればいいわけではなく、環境保護も経済を回すことも同時にやる必要があるわけで、多面的な視点を持たせてあげるよう意識しています。株式会社ユーグレナによるミドリムシを活用した食糧問題のソリューションなど、新しい取り組みも積極的に紹介しつつ、探究を通して、社会貢献できる生徒を育成したいと考えています。
講師:栗栖 裕先生(横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 主幹教諭・サイエンス・グローバル事務局主任)
【プロフィール】
平成元年早稲田大学教育学部英語英文学科卒業、横浜市立戸塚高等学校定時制に赴任。10年勤務した後、横浜市派遣教員としてUnited Nations International Schoolで2年間過ごす。横浜市立東高等学校勤務を経て、当時SELHiの指定を受けていた横浜市立横浜商業高等学校に赴任。課題研究授業Global Learningの指導を体験。国際学科主任を8年間務め、平成28年に現任校へ。課題研究では「グローバルスタディーズ」分野を担当、サイエンスの力で地球規模の問題の解決を目指す生徒の育成を目指している。
編集・執筆:株式会社REGION
社会課題解決力を育成する「理数探究」の授業デザインと評価の具体的手法(1)の記事はこちら