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【セミナーレポート】第27回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(三重県立上野高等学校 辻井先生)

作成者: Ai GROW 運営事務局|Apr 15, 2024 4:10:12 AM

 

2024年2月29日(木)にオンラインで開催した本セミナーでは、探究型学習や課題研究の推進に教育データを利活用される三重県立上野高等学校 辻井伸文先生を講師に迎え、日頃の実践の目的や内容とともに、外部指標によって獲得できた客観的な教育データをどのように活用されているのか、具体的にご紹介いただきました。

 

新時代に対応する人材を育む探究型学習の加速に向けて

 

【講師】

辻井伸文先生三重県立上野高等学校 教頭

 

三重県伊賀市にある本校は、進学校として地域から大きな期待が寄せられている一方で、地域の子どもの数の減少、大都市へアクセスの良ゆえ他地域の高校への進学を希望する生徒の増加などにより、志願倍率を維持するうえで大きな課題があることも事実です。そのような中、本校は、伊賀地域の理数教育の拠点となるべく令和元年度からSSHスーパーサイエンスハイスクールの指定を受け、世界に貢献する科学技術人材の育成を目指しています。さらに、令和4年度からは「新時代に対応した高等学校改革推進事業」の指定も受け、特に志願倍率が厳しい状況となっている普通科をどのように魅力化・特色化し、地域のニーズに応えるのかという課題に取り組んでいます。これら2つの事業探究を中心に進め、「伊賀を想い、世界を見据え、社会の課題に挑戦し続ける人材」の育成を目指しています。

 

SSHでは、「自ら考え挑戦する力(思考力、判断力、表現力、挑戦する力)みらいを切り拓く力(課題探究能力)を育むことで、伊賀から世界へはばたく科学技術人材の育成を目指すことを目的に、

  • 理数科:課題研究に必要な手法の習得やアドバイスなど、大学や企業の研究機関と連携しながら課題発見・解決力を育成する「みらい探究R
  • 普通科:地域に関した探究で基礎を学び、行政に改善策提案を行うなど地域や地元企業との連携で課題発見・解決力を育成する「みらい探究F

を通して3年間の系統的な探究プログラムの開発・研究を行ってきました。

 

 

「新時代に対応した高等学校改革推進事業」では、学校の目指す「伊賀を想い、世界を見据え、社会の課題に挑戦し続ける人材」の育成を目標に掲げ、「社会の形成者としての自覚と責任を持ち、他者と協働しながら、解決に向けて主体的に行動する力」を育みたいと考えています。具体的な資質・能力でいえば協働、主体性、論理的思考力、表現力、実行力などです。本事業では、校内だけでなく本事業専任のコーディネーターが中心となって行政や大学、民間企業などと連携を深めるコンソーシアムを構築し、取り組みを進めています。

 

 

SSH指定初年度は、評価ツールとしてアンケートやルーブリックなどを活用していました しかし生徒の意識の変容などはある程度把握できても生徒の資質・能力の成長把握やプログラムの効果検証には不十分なことが分かり、適切な評価ツールを探していたところ辿り着いたのが当時三重県教育委員会が他の事業で活用していたIGS社の「Ai GROW」でした。現在は、探究を通した生徒の資質・能力の変化の定量化、そして探究型教育プログラムを推進する2つの文部科学省指定事業の効果検証という2つの目的で活用しています。

 

Ai GROW」には、25のコンピテンシーの中から複数のコンピテンシーを組み合わせることで育みたい資質・能力とその成長をエクセルなどを加工することなく管理画面上で確認できる「学校コンピテンシー機能」があります。本校では、それぞれの事業で育みたい資質・能力この機能を活用しながら定量的に把握・評価しています。

 

コンピテンシーの掛け合わせによって2つの文部科学省指定事業で育みたい資質・能力を定量的に評価

 

Ai GROW」の管理画面では、成長したコンピテンシーや課題となるコンピテンシーを箱ひげ図や基本統計量などですぐに確認することができ、さまざまな活動の効果や改善点を具体的に考えることができます。探究や実証事業ではさまざまなステークホルダーにも関わっていただくため、伸ばしたい資質・能力とその内容、成長させるために意識したいことなど、データを確認しながら関係者で話し合い、共通認識をもって事業を進めることができます。

 

定量的な成長データを基に事業の効果や課題を考察

 

さらに、同じく管理画面で表示できる、縦軸を平均値、横軸を標準偏差にした、コンピテンシースコアのバラつきを示すグラフからは、計測したコンピテンシー全てにおいて生徒による差が少なくなったことが分かります。

 

赤が事業実施前、青が事業実施後の計測結果。計測した全コンピテンシーにおいて標準偏差が小さくなったことが分かる

 

今後も、学校の教育活動としてはコンソーシアムの充実や海外も含めたさまざまな出会いの機会の創出、データ・サイエンスやSTEAMの視点の強化などにより、探究学習をさらに充実させたいと考えています。データ活用という面では、今後も「Ai GROW」の活用を重ね、プログラムの効果を検証しながら改善を測っていきたいです。また、大学進学を希望する生徒も多い中で、コンピテンシーと狭義の学力との関連分析による指導力強化、面談での活用など、生徒の成長への還元を進めていきたいとも考えています。

 

新時代にはばたく「伊賀を想い、世界を見据え、社会の課題に挑戦し続ける人材」の育成へ向け、2つの事業を通して、そして「Ai GROW」とともに、取り組みをさらに進めたいと思います。