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【セミナーレポート】第19回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(関西学院高等部 田澤秀信先生)

作成者: Ai GROW 運営事務局|May 19, 2023 12:53:41 PM

 

新学習指導要領で重視されている探究型学習。⾃ら課題を発⾒し、学び、考え、判断し、課題を解決する資質・能⼒を育む探究型学習は、総合型選抜はもちろん、考える力、活用する力、表現する力などが求められるようになる一般選抜入試においても、実績を伸ばしていくために重要な教育機会になることは間違いありません。

一方、探究型学習の学習歴と評価は重要であるにも関わらず、評価基準のあいまいさや評価の負担の大きさなどから生徒の成長につなげる定量的かつ形成的な評価が課題となっていることも事実です。

2023年3月14日(火)、オンラインで実施した本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる関西学院高等部(兵庫県)の田澤秀信先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

田澤秀信先生(関西学院高等部 副部長)

 

本学は、兵庫県西宮市にある幼稚園から大学院までを有する総合学園です。高等部は男子校から共学化して8年目。キリスト教主義に基づく「自由と自治」を校風とし、他者さらには広く社会に貢献できる人間の育成を目指しています。

 

学校はどのような場であるべきか

本校の生徒たちは、約95%がそのまま関西学院大学に進みます。大学受験がほぼないに等しいこの環境を生かし、探究型学習が多くの学校で導入される前から「探究的な学び」を通した生徒の将来を見据えた資質・能力の育成に取り組んできました。しかし、この「生徒の将来」ということを考えたとき、私にはずっと気になっていることがあります。

ボストン・コンサルティング・グループが2022年6月に発表したレポートでは、日本の消費者の環境意識の低さが明らかに。若い世代はどうかというと、2022年5月に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」によれば、日本の18歳は「将来の夢をもっている」「国や社会を変えられると思う」「自分の国に解決したい社会課題がある」と考える割合が他国に比べて低くなっています。日本人の幸福感を決定する要因は学歴や年収よりも「自己決定」であるとする別のデータもある中、自信もない、夢ももてない、社会課題も認識しておらず変えられると思っていない現代の日本の若者は、幸せとはいえないでしょう。

しかし、自己決定のためには、自分がどういう人間か、どう生きたいのかを知る必要があります。私は、課題を設定し、情報を収集し、整理・分析し、まとめ、表現する探究型学習が、生徒が自分の将来に向け、自分の在り方や生き方を考える力を育む最適な教育機会になると考えています。高校卒業後は、その気になれば嫌なことからは逃げられます。その前に、いかに自分の在り方や生き方と向き合い、自分自身でしっかりと意思決定する力を身に付けられるかが重要ではないでしょうか。高校はその最後の砦です。コロナ禍で知識はオンラインでも学べると分かったことで、リアルな学びの場である学校の役割はさらに明確になったのではないでしょうか。

 

学校のあらゆる場に「探究」を

探究型学習を進める中で、さまざまな取り組みを試したり、課題にぶつかったりするたびに、私はいつもこの「生徒が自分自身の未来を考え抜く活動になっているか」という問いに立ち返るようにしています。論文やプレゼンテーション、ディスカッションに取り組ませれば探究型学習を進めている気になってしまいがち、プログラムが終わると頑張ったね、で済ませてしまいがちですが、もっとも重要なのは、学校のあらゆる場に「探究」をばらまいておくこと。その中で自己決定、自己確認をどれだけ経験させられるかという仕組み作りが、これからの学校の役割だろうと思っています。

本校ではこのような考えの下、

1)自分自身で課題設定する場 (読書科の授業)
2)探究に必要な基礎知識を習得する場 (通常の授業)
3)学内で他者と交わる場 (探究型授業)
4)学外で他者と交わる場 (探究型行事)
5)自分自身の歩みをきちんと振り返る場 (ポートフォリオ+「Ai GROW」)

を用意し、全体をリンクさせ、探究型学習が螺旋(らせん)のように循環する状態を目指して取り組んでいます。

 

 

まず1の「読書科」は、生徒それぞれの関心や気付きから自由に選んだテーマに基づき、情報収集や整理を経て3年間で平均約1.6万字、多い生徒で6万字程度の論文を作成する授業です。

次に、3の「探究型授業」ですが、大学・企業・その他団体と連携したPBL型、教科横断型、異学年協働型の授業を目指し新しく開講した科目です。「AI活用」、「ピーススタディ」、「グローバルスタディ」などがありますが、例えば「ピーススタディ」では、貧困や戦争や気候変動など人によって異なる平和の定義を生徒同士でぶつけ合うところからスタートし、フィールドスタディなども行いながら自分なりのプロジェクト遂行を目指します。戦争をテーマに、自分たちのキャンパスに残る戦争遺構をAR(拡張現実)を用いたマップとして作成したチームは、作成したマップを用いた平和学習のプランを持って小学校や中学校などへ出張授業を実施。その様子はメディアにも取り上げられたこともありました。探究型学習を進めていく中で、通常授業も探究を意識した内容へと変わってきたり、探究型学習で採用している評価や振り返りが他の授業にも広がっていったりと、学校全体へも「探究」が波及しつつあります。

4の「探究型行事」ですが、多くの生徒や先生方を巻き込むのに最適な行事にも、探究的な要素をどんどん取り込んでいくようにしています。生徒たち自ら、アイデア出しから実施に向けた交渉も行い実現にこぎつける行事もあります。先日は約300人が参加し、コンテストやセッション、生徒交流会を行う「中・高生 探究の集い2022」も開催しました。

 

「振り返り」の徹底

このように、あらゆる「探究」を進める中で、本校がもっとも重視しているのが「振り返り」です。以前から課題研究などには取り組んできましたが、発表内容や資料をまとめることはうまくなっても質疑応答をさせると表面的な回答しか出てこず、自分事として考えられる力を育めているのだろうか、という悩みを抱えていました。自分の生き方や在り方を考えられるような学びの場にするためにはどうしたらいいかと考え、辿り着いたのが「振り返りの徹底」です。

生徒たちはまず、紙ベースで学びの記録を残します。ここでは自分の考え、他者の考え、先生の考え、驚き、疑問、調べる必要があるもの、参考図書などを明確に分けて限られた時間で記入し、「頭の中の動きの見える化」を行います。さらに、期間をある程度空けながら定期的にデジタル・ポートフォリオにも活動を記録先生からの評価コメントを確認してさらにもう一度振り返りを行います。ここまで徹底的にやるのは、どれだけ深く考えたか、どれだけ積極的に関わったかを何度も問われることによって、ようやく自分の在り方や生き方が見えてくると考えているからです。

 

客観的評価を実現し、成長を可視化する「Ai GROW」

しかし、評価で使用する学校で作成したルーブリックや先生の評価にどうしても作成者や評価者の主観が入ってしまいます。客観的な指標を導入する必要があると考えていたときに出会ったのが「Ai GROW」でした。年間何度でも受検でき「探究」前後の変化を把握できる点、受検後すぐに管理画面や個人レポートを通して振り返りに有効なデータ入手でき、翌日からの学びや指導に活用できる点が導入の決め手でした。

多面的な成長が見える化されることは、生徒にとっても教員にとっても非常に大きな意味があると考えています。他人からも評価され、自分では気付いていない力も含めて自分の強みを知る、その経験を積み重ねていくことによって、生徒は自分自身に対する理解を深めると同時に自己肯定感を高め、簡単には折れないしなやかさを身に付けることができます。教員としても、生徒への関わり方を見直したり、教科はあまり得意ではなくとも自分の好きなことで今後大きく伸びていくのではないかと感じる生徒たちにも能力や成長を踏まえた前向きな声掛けを行ったりできるようになりました。

大切なのは、「Ai GROW」を受検させて終わり、やりっぱなしにしないこと。受検結果に対する振り返りしっかりと、ポートフォリオに活動の中身だけでなく、それによる資質・能力の成長もまとめさせています。コンピテンシーは自然に成長し続けるものではなく、伸びないことや下がることもあります。コンピテンシーが伸びなかったとき、下がったときが振り返りの最大のチャンス。なぜ伸びなかったのか、何が足りなかったのかえる振り返りによって、学びへの姿勢が驚くほど変わります。

 

 

また、「Ai GROW」のデータはプロジェクトやプログラムの検証にも活用できます。文部科学省の「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」のカリキュラム開発拠点校として、3年間、探究型学習に注力してきた生徒たちコンピテンシーの成長を計測し続けましたが、学年が上がるたびにコンピテンシーはきれいな右肩上がりで成長したことが分かりました。従来の学力と相関が高いと考えられる課題設定論理的思考疑う力創造性も確実に伸びている上、本校が大切にしている自己効力影響力の行使地球市民協働性も大きく伸びたことが分かり、「探究」を軸としたこの歩みが正しいものだと確信することができました。学校全体でこの結果を共有した上で、入試の仕組みなども探究とそこで伸びる力を重視した形に変えようと動き始めています。

 

 

生徒は「育てられる」のではなく「自ら育つ」

私がこれらの取り組みを通して感じているのは、考え抜いた上で場を与えれば、生徒は勝手に育っていく、ということ、そしてその中で生徒が「自ら育った」と感じられることが重要ということです。そのための環境の提供に、学校としての「手厚さ」をシフトするべきです。自分で決定する経験、そして自分が頑張ったと思える経験をどれだけ積んだか、そしてどれだけ自分と深く向き合ったかが、生徒の将来を支える力となります。探究型学習や「Ai GROW」の活用は教員にとっても新しい挑戦ではありますが、挑戦する姿を見せるのも生徒の成長にとって意味があること。生徒たちのさらなる成長を目指し、私自身も挑戦を続けていきたいと思っています。