新学習指導要領で重視されている探究型学習。⾃ら課題を発⾒し、学び、考え、判断し、課題を解決する資質・能⼒を育む探究型学習は、総合型選抜はもちろん、考える力、活用する力、表現する力などが求められるようになる一般選抜入試においても、実績を伸ばしていくために重要な教育機会になることは間違いありません。
一方、探究型学習の学習歴と評価は重要であるにも関わらず、評価基準のあいまいさや評価の負担の大きさなどから生徒の成長につなげる定量的かつ形成的な評価が課題となっていることも事実です。
2023年3月14日(火)、オンラインで実施した本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる徳島県立脇町高等学校の大久保邦博先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。
【講師】
大久保邦博先生(徳島県立脇町高等学校 教諭)
本校は創立120周年を越える、徳島県の県西部にある公立高等学校です。文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業に採択され、現在3期目の3年目(※2023年3月時点)です。本校のSSH事業は全校生徒が対象となっていますが、2年次より選抜される文理融合クラス(Sコース)では特別カリキュラムとして週3回の課題研究を行っています。私自身も本校の卒業生で、赴任して9年、SSH担当になってからは4年が経ちました。専門は理科、化学ですが、地域創生に関するプログラムや探究型学習も担当しています。
脇高版コンピテンシーとそれを育む課題研究
生徒数と教員数の減少、そして近隣に大学などの研究機関がない、交通の便が悪いといった地域的な問題に加え、大学入試の変化などから、生徒たちがチャレンジを避けたがる傾向にあること、安易な進路選択をしがちであること、当事者意識が希薄であることなどがこれまで本校の課題となっていました。学校活性化のため、そして、生徒たちが当事者意識をもって将来を考えられるようになるためにと、SSH3期目の申請では「地方における社会を変革し、未来を創造できる科学技術人材の育成」を目指しています。
その目標達成に向け、本校では「実践する力」「社会に貢献する力」「自己実現する力」を「脇高版コンピテンシー」として定めており、それらを育む場として協働的問題解決学習や探究型学習を位置付けています。
1年生は「SW-ingリサーチ(SWは「サイエンス脇町」の略)」として、広くサイエンスの力を身に付けつつ、探究活動の練習を行います。2・3年生になるとSDGsに関わる課題研究(Sコース以外)や自然科学分野の課題研究(Sコース)に取り組む他、1年生から参加することができる「探究部」もあります。
課題研究の評価、個別フィードバックを実現する「Ai GROW」
このように課題研究をカリキュラムの中核に据えている本校。主体的・協働的な課題研究を実践するための基盤となる資質・能力を「SW-ing SLC(SLCは「スキル・リテラシー・コンピテンシー」の略)」として定義し、全教科・科目を通してその育成を目指しています。その一方で、入賞などの実績が評価の中心になってしまうこと、指導と評価の一体化が実現できていないこと、グループでの探究活動の場合は個人へのフィードバックが難しいことなどが課題となっていました。また、課題研究の自己評価および振り返りを行う取り組みはシートに記入させる形で以前から行っていたものの、自己評価だけで本当に良いのかという悩みもありました。
これらを解決できるのではと考え、2020年度途中から導入したのが「Ai GROW」です。計測するコンピテンシーは「SW-ing SLC」に合わせて選択し、成長の定点観測のため学年ごとに、また行事前後に受検を実施しています。
課題研究による成長をより詳細に確認できる「探究力測定」
このように資質・能力やその成長を可視化していく中で、本校が中核に据えている課題研究が生徒の資質・能力を本当に伸ばせているのかという点をより詳細に確認したいと考え、2022年度には「Ai GROW」に探究スキルが測定できる「数理探究アセスメント」がパッケージ化された「探究力測定」を導入。探究活動における形成的評価を実現できるだけでなく、教員の指導力向上や指導の効果の実証、課題点の把握にもつながるのではという期待も「探究力測定」の導入(「Ai GROW」だけでなく「数理探究アセスメント」も併せた導入)を後押ししました。
生徒の資質・能力を定量化することで「協働的問題解決力」を測る「Ai GROW」と
数理科学的なものの見方、考え方を測る「数理探究アセスメント」を
パッケージ化した「探究力測定」
課題研究を始める前の2月と、取り組みを進め実験計画を立てている段階の7月に「探究力測定」の受検を行いましたが、各計測能力の成長がはっきりと確認でき、課題研究の効果を確かめることができました。一方で、創造力が下がるなど、課題も見つかりました。「Ai GROW」で同時期の協働的問題解決力も比べてみたところ、特に2年生ではスコアの伸びが確認でき、グループワークの効果も確認できました。
「探究力測定」の受検を進めてみて、指導の効果を客観的に把握できるだけでなく、課題を具体的に見出すことができたことが非常に大きな効果だと感じています。生徒たちも、次々と出題される「探究力測定」の問題に時間が足りなくなるほどのめり込み、楽しみながら取り組んでいた様子が見られました。また、これまではグループの成果に対し、メンバー全員を同じような評価にしてしまうことが多かったのですが、個々の生徒に数値として結果をフィードバックできるようになりました。
探究の成果を数値化できたことで、生徒も自身の課題を明確に把握できているようです。フィードバック時には、自身の結果でレベルが低めだった能力を指し「どうやったらこの力を伸ばせますか」と質問をする生徒や、「もっと視野を広げたいと思いました。どうしたら良いですか」とアドバイスを求めてくる生徒も。「探究力測定」受検後の課題研究では、「立てた計画では足りないからもう一度調べ直そう」と、これまでの一歩先へ自ら進む姿も見られました。さらに、SSHの事業評価につなげることもできる「探究力測定」は、学校全体にも大きなメリットをもたらしています。
「探究力測定」のレポートでは自校と全国の受検者のレベルを比較することもできるのですが、2022年12月に実施した1年生の結果では、本校の課題でもあった「創造力」が、他校よりも高い結果となりました。日々の授業や、イノベーション教育として行ったワークショップなど、さまざまな取り組みの効果が少しずつ表れ始めているのかなと嬉しく思っています。
数値化により取り組みの効果の確認、改善が可能に
このように、本校ではこれまでの「Ai GROW」に「数理探究アセスメント」を加えて活用することにより、生徒の資質・能力とその探究型学習による成長や課題をより直接的かつ網羅的に把握しながら改善を図ることができるようになり、歯車が良い方向へ回り始めたのを感じます。妥当性や考察力を高めるための専門家との連携強化やデータ分析や統計処理を学ぶ機会の充実、個人に依存しない指導方法の引き継ぎなど、課題はまだまだありますが、数値化はスムーズな引き継ぎの第一歩でもあると考えています。
今後も、「探究力測定」を活用しながら、学校としてはコンピテンシー・ベースの教育のさらなる充実、研究指導の教員研修、コンピテンシーと学力との相関分析などに、課題研究としては、大学や専門機関との連携、さらには近隣学校への普及にも取り組んでいきたいと思っています。