知識の習得だけでなく、課題設定力や問題解決力、主体性などといった非認知能力を育む活動が、教育現場において増えてきています。探究に代表されるこうした活動の成果を定量化する新たなアセスメント・ツール「数理探求アセスメント」の監修者である東京学芸大学大学院の西村圭一先生に、探究活動の評価における課題や留意点とともに、本アセスメントの開発背景をご紹介いただきました。
【講師紹介】
西村圭一先生(東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授)
東京都立高等学校、東京学芸大学附属大泉中学校、同国際中等教育学校教諭、国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官、東京学芸大学教育学部数学科教育学分野教授を経て、現在に至る。 日本数学教育学会業務執行理事 、数学教育編集部長、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(高等学校数学科、高等学校専門理数)、Bowland Japn代表、探究オリンピック-明日の思考力コンテスト-委員長、IJMEST(International Journal of Education in Mathematics, Science and Technology)Editorial Advisory Board 、東京学芸大学SSH/WWL合同推進委員など多数。
主な編著書に、『中学校・高等学校数学科 授業力を育む教育実習』(東京学芸大学出版会,2018)、『真の問題解決能力を育てる数学授業-資質・能力の育成を目指して』(明治図書,2016)などがある。
評価は、今の状態を伝えるだけでなく、その後の学びや成長につながる振り返りとセットとなるものです。「どんな点が足りなかったのか、今度はどうすればよいか」と問うことで、次に生かされます。「自立」を視野に入れた振り返りこそが評価となります。
国立教育政策研究所が新しい学習指導要領に対応した評価に関する資料を作成し、公開しています。例えば、総合的な探究の時間では本来の目標に沿って、「知識・技能」「思考・判断・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」というような観点から、評価規準に基づいて評価することになっています。評価規準を示すことは容易ですが、探究専門の先生がいるわけではなく、本当にできるのかと問われる部分もあるでしょう。
そこを克服するために、「もう少し細かい評価の基準としてルーブリックを活用し、手軽に測れるようにしましょう」と言われもしますが、果たしてどうなのか。評価においては粒度も大事なポイントになると考えているのですが、実は、色々な評価基準をよく見ていくと、結構、その粒度が粗かったりします。「評価は何のためにやるのか」という原点に立ち返ることが大切です。本来は、成績表や調査書を作るためではなく、生徒がより良く成長していくために評価するということを思い出す必要があります。
もう少し具体的に、指導と評価の一体化について踏み込んでいくための一つのヒントとして、中学校や高等学校で言われている「行事や部活で生徒を育てる」という考え方があります。指導力が非常に高い担任の先生や部活の顧問の先生には、「評価がうまい」という特長があります。例えば、校内の合唱コンクールなどでは、生徒の意識はどうしても上位に入ることに向かいがちですが、本来の目的は「学級の結束力を高める」ことにあるわけですから、合唱練習のプロセスで生徒がそういう振り返りをできるように先生が指導するクラスはどんどんまとまっていきます。
同じことは、授業や探究の場面でも言えるはずです。自分でやってみて、結果について反省し、自分で改善や改良していくことを学べるようにする、あるいは、子どもの成長を促すことこそが、本来の評価の姿だと思います。レールの上を走らせるような探究では、そういうことにはなりません。
実際に学習指導要領では「理数探究」の目標について、「理数科の目標を受けて示しているものであり、さまざまな事象に関わり、数学的な見方・考え方や理科の見方・考え方を組み合わせるなどして働かせ、探究の過程を通して、課題を解決するために必要な資質・能力を育成することである」と説明されています。
また、教育再生実行会議の第11次提言では、「STEAM教育」の推進が提言されました。科学(SCIENCE)・技術(TECHNOLOGY)・工学(ENGINEERING)・芸術(ART)・数学(MATHEMATICS)という英単語5つの頭文字を組み合わせた造語であるSTEAM教育は、理数教育に創造性教育を加えた教育理念で、「知る」(探究)と「つくる」(創造)のサイクルを生み出す分野横断的な学びです。その目的としては、「人材育成」の側面と「STEAMを構成する各分野が複雑に関係する現代社会に生きる市民の育成」の側面があり、教育再生実行会議の第11次提言は「学習意欲に課題のある生徒たちにこそ非常に重要であり、生徒の能力や関心に応じたSTEAM教育を推進する必要がある」と教科横断的な学習を充実することの重要性を強調しています。
私が監修させていただいた「数理探求アセスメント」は、
(1)課題設定力(検証可能な仮説を立てる力)
(2)実験計画力(変数を見出す、制御する力)
(3)考察力(結論や提案を批判的に考察する力)
(4)創造力(新たなアイデアを創造する力)という4つのカテゴリーの力を評価します。
多様な課題場面を用意して、多様な出題・解答形式で評価していこうという考え方を集約したものが「数理探求アセスメント」です。生徒もさることながら、先生方も生徒たちが何を書いてくれるだろうと楽しみにされるということも考えながら、問題が作られています。
「グループ」は単に人数を集めたものですが、「チーム」はメンバーそれぞれが役割を持って一つの課題を解決するために同じ方向へ力を合わせていくものです。「数理探求アセスメント」はそうしたチームでの活動や研究にも役立つのではないかと期待しています。
編集・執筆:株式会社REGION