「100年に1度の危機」と言われている新型コロナウイルスの感染拡大は、全国の小・中学校、高等学校に対する臨時休校要請という異例の事態をもたらし、3月2日から生じている“非日常”は教育史上まれに見る変革がせまられているといっても過言ではない。
文部科学省が4月21日に公表した公立学校における学習指導の取り組み状況のアンケートによると、回答のあった1213件のうち「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」が100%を占める一方、「デジタル教科書やデジタル教材を活用した家庭学習」は29%、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」は5%にとどまっている。このアンケートは、1213の自治体にある2万5223校を対象に実施されたものだが、回答率の極端な低さも教育現場の戸惑いを反映するものと言えるかもしれない。
フランスでも、幼稚園から大学までの全てが3月16日から休校となっており、文部科学省から経済協力開発機構(OECD)に出向している樫原哲哉OECD政府代表部参事官は、文科省が発行している「初等中等教育局メールマガジン」第381号(2020年3月27日発行)と第382号(2020年4月10日発行)で、Zoomを用いたオンライン授業に移行した自身の子弟が通学する学校での事例を報告。
授業を一方的に流すのではなく、教師と生徒が双方向のコミュニケーションをとる形式の授業は「魅力的であり、ありがたい存在」と指摘し、「様々なアプリが開発されたことで、教育委員会や学校が大規模なシステムを構築しなくても、オンラインで学習指導を始めることが容易になった」ことの意義を強調している。
樫原参事官は、今回の学校閉鎖に合わせて、国民教育省が公共放送局と授業を流す番組を立ち上げたことにも言及し、「オンライン双方向型の授業だけが唯一の解ではなく、どの国も、あらゆる手法を活用して今回の状況を乗り越えようとしている」という見方も示した。
Institution for a Global Society(IGS)が同社主催によるオンラインセミナーに参加した公立・私立の中学校と高等学校の先生33人を対象に実施したアンケートでは、「Zoomを利用してオンライン授業やHRを実施したことがありますか」という問いに対して「実施したことがない」が54.5%と過半を占め、「実施したことがある」の21.2%の倍以上となった。それでも、「今後実施予定」が15.2%、「Microsoft Teams」が6.1%、「Google Meet」が3%となり、「実施したことがある」も合わせると45.5%がオンラインでの授業やHRに積極的な姿勢を示したことになる。
また、「オンライン授業システム(Zoom等)をどのタイミングで活用していますか?(活用予定も含む)」という問いでは15件の回答中、「各教科の授業」が14件で最多となり、「朝のHR」が9件で続いている。一方、少数とはいえ、「総合的な探究の時間」(2件)、「LHR」「学年集会」「学校説明会」「個人面談」がそれぞれ1件となり、「オンライン授業システム」の多様な可能性も示唆する結果ともなった。
IGSのアンケートでは、一定の時間にわたって画面を見続けることになる生徒の「集中力維持」を懸念する先生の声もあった。オンライン授業の先進国である米国・ハーバード大学のオンライン学習に関する研究によると、授業の間に小テストを入れることで、集中できない生徒を50%減らし、ノートを取る生徒を3倍に増やすことができるという(Online learning: It's different, 2013)。IGSでは、2分程度の小テストを頻繁に取り入れることが有効なのではないかと考えており、また、中学校と高等学校の先生を対象にした実践セミナーでは、オンライン授業中に定期的な「チャット」や「投票」といった活動をこまめに入れることの有用性も提案した。
オンラインでのグループワークの難しさも指摘されている。小学生のオンラインコミュニケーションに関する台湾の研究では、「グループの中にタスク志向が強い生徒を入れることで、知識の習得が高まる」「調整型の生徒が多い場合は、議論の進め方に関する話題が多くなる」「オンラインでグループ編成をする場合は、グルーピングを工夫する必要がある」といった結果が報告された(Elementary students’ participation style in synchronous online communication and collaboration, 2010)。
Zoomにはグループワークのために参加生徒をグループ分けする「ブレイクアウトルーム機能」があり、IGSが提供する“Ai GROW”には、リーダーシップ力・イノベーション力・3つの思考力を伸ばすために最適なグルーピングを提案する機能がある。各サービスを上手に活用し、適切なグルーピングをすることがグループワークを成功させる第一歩と言えるだろう。
オンライン授業をサポートする環境も、一人一人に最適化される「アダプティブ・ラーニング」と呼ばれるサービスの拡充によって、著しく進展してきた。
AI型学習システム“Qubena(キュビナ)”は、生徒の解答だけでなく画面に手書きされた思考過程や所要時間などのデータも蓄積して、得手不得手を解析した上で苦手克服につながる問題を出してくれる。学年にとらわれない無学年方式で「さかのぼり学習」や「先取り学習」が出来る“すらら”は、低学力層の底上げ効果で注目を集めている。何れも、生徒一人ひとりの習熟度に合わせて学力を高める「アダプティブ・ラーニング教材」だ。
IGSの“GROW Academy”は、「Soceity 5.0」時代を見据え、従来の紙の教材では難しかったコンピテンシーの育成を可能とする。動画コンテンツとワークシートが月額定額制により使い放題のサービスで、直ぐに授業で使えるよう動画ごとに指導案とワークシートが完備されている。
▲“GROW Academy”の動画及び指導案&ワークシート
生徒の資質・能力を定量化する“Ai GROW”と併用することで、環境設備をすることなく、新学習指導要領でも求められるコンピテンシー・ベースの教育とその適切な評価を実現することも可能だ。生徒の能力と可能性に加えて、様々な教育活動の教育効果を可視化し、カリキュラム・デザインやクラス・マネジメントだけにとどまらず、就職までを見据えた進路指導などにも幅広く活用できるものとして注目されている。
編集・執筆:株式会社REGION