ICT環境導入は進んでいるものの、まだ使いこなせていない、運用に課題感を持っている学校も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの影響で学校が休校となってしまい、様々な課題が発生し、教育関係者の皆様は対策対応に追われて忙しい毎日をお送りのことと思います。
さて、本記事では、今回の事態を受け、私も微力ながらベンチャーCTO経験者として、教育関係の皆様のリモート体制・IT/ICT環境構築のアドバイザリーを承らせていただく中で、共通する課題のポイントと、今だからこそできることをご紹介させていただこうと筆をとらせていただきました。
システムの評価をおこなう際にRASISという言葉があります。これは、「信頼性」「可用性」「保守性」「保全性」「安全性」の5つの指標の頭文字をとったものです。学校という現場でICTを活用する場合、特に校内にシステムエンジニアリングの専門家がいない環境の場合だからこそ、特にこれらをしっかり構築しておかないと、いざトラブルの時に授業すらできなくなります。
ソフトウェアやハードウェア、クラウドサービスを利用する場合に、ひとつひとつのサービスについては信頼性と保守性は提供者が担保するべき問題ではありますが、「学校」として提供するべきことはあくまで教育と教育環境であり、ひとつのサービスが使えなくなったからといって教育の進行を停止するわけにはいきません。先日、この騒ぎを受けてか、大手の教育サービスが一時的にダウンしたり、情報漏洩したりといったこともあったばかりです。何かあったときのためにサブシステムを検討、用意しておいて、速やかに切り替えられるように備えておくことが非常に大切です。
学校にインターネットやWi-Fi(無線LAN)の導入が進んでいて、既に導入済みという学校は多いと思いますが、契約が1回線だけ、Wi-Fiも構内の特定の場所だけというところもまだまだ多いと思います。また、生徒一人一人の通信環境となると、そこまでカバーできている学校はほとんどないでしょう。
1つのインターネット光回線だけというところもあるでしょうが、複数引いておくに越したことはありません。もし学校全体で1Gbpsの通信量しか確保できていないなら、これを期に5Gbpsに、また、1契約しかしていない場合、できるなら違う会社でもう一つ契約しておくと良いでしょう。大手で言うと、NTTとKDDIが同時にトラブルになるようなケースは稀なので、何かあっても接続を維持しやすくなります。
そして、学校全てにケーブルを引くわけには行かないでしょうが、Wi-Fiを切れ難くするために、アクセスポイントの追加、無線LAN中継機を購入して設置しておくと良いかもしれません。
アクセスポイントは、ビジネス・オフィス用は割と高価ですが同時にたくさんの人が接続できます。間違っても安いからと言って個人向けを購入しないようにしましょう。業者に任せているなら増強を相談する方が良いでしょう。
▼無線LANアクセスポイント例
YAMAHA |
Cisco |
BUFFALO |
無線LAN中継機は電波を強くする役割をするだけの機械なのでビジネス用と個人用の境目がさほどないため、1台あたり数千円から購入することができます。教室の端や隣の教室だと電波が弱いなどがあれば、ポイントごとに設置すると格段に無線LANの通信がよくなります。現在利用しているWi-Fiルーターやアクセスポイントに対応しているかどうかよく確認してから購入しましょう。
無線LAN中継機に関してはビックカメラさんのこちらの記事がわかりやすく参考になります。
Wi-Fi中継機のお勧め14選
そして、通信環境の強化として最後に、学校で4〜5台はモバイルルータを契約しておいておくことをお勧めします。これは、突然学校のWi-Fiが繋がらなくなった時に使えるだけでなく、校外活動でも大いに役立ちます。
また、生徒それぞれのインターネット接続環境に関して、完全に個人任せという状態も本質的にはよくありません。学校側で、推奨接続環境の提示をし、最低でもこれくらいの通信速度が出るものなどのガイドラインは配布できるようにしておきましょう。私立であれば、どのサービスがいいかのお勧めも何点か用意しておくのが良いでしょう。
それに加えて、学校によってはインターネットプロバイダの代理店として扱ってもらえる場合があります。代理店として扱ってもらうことができれば、1契約毎に卸料金で提供してもらうことができたり紹介料が発生することで学生に通常より安い料金でインターネット接続を提供できる場合もありますので、推奨サービスを決めたら代理店登録できるか問い合わせてみるのも一つの可能性です。ただし、言うまでもないことではありますが、公立でも私立の学校法人でも法的に公益の扱いになりますので、それが利益目的でないことを会計上しっかりクリアにする必要があります。
メインで利用しているサービスでは、教材や講座の配信、テストの配信などを行っているでしょう。しかしこれらが突然使えなくなってしまったときのために、サブで使えるシステムも導入しておいて、数週間、数ヶ月に一回程度の頻度で実際に使っておく体制を作っておくと良いでしょう。
サブのシステムを検討する際は、ガッツリしたフルパッケージのLMSを選ぶよりも、安く、簡単で、気軽に使えるものを、普段の学習の中に少しだけ取り入れることをお勧めします。サブシステムのお勧めとしては、アンケートフォームのサービスをお勧めしています。
Webサービスのアンケートシステムはテストを作成できるようなものも多数あります。代表的なものでいうとGoogle Forms、Microsoft Forms、Survey Monkeyなどがあります。アンケートだけでなく、問題を作って自動採点するテストも作成することができるのです。
これらのサービスは無料でももちろんある程度のところまで利用することができますが、バックアップとして、教員分と、可能なら1クラス分程度の有料アカウントを契約しておくこと、そして何より、普段の授業で時々使ってなれておくことをお勧めします。
サービス名 | URL |
Google Forms | https://www.google.com/intl/ja_jp/forms/about/ |
Microsoft Forms | https://forms.office.com/ |
Survey Monkey | https://jp.surveymonkey.com/ |
個人の成績のデータだけでなく、誰が何をどこまでやっているかの進捗だけでなく、得意なこと、苦手な単元などは、これまで教師の経験と勘頼りが大きかったところです。これからのAI時代に、データをいかに正しく集め、整理し、蓄積することは非常に重要なこととなるでしょう。
普段使っているサービスがダウンしたと言うだけでデータの記録を残せなくなったり、そもそも蓄積していたデータが全てなくなってしまったなんてことになったらごめんなさいではすまなくなります。データ記録方法の予備の準備と、データのバックアップの準備はしっかり整えておく必要があります。
データ記録の仕組みの補助体制は、LMSを選ぶ以上に重要です。データがなくなったらと言うこと以上に、LMSがいざ使えない時に記録を残すことができる体制がないと簡単に混乱してしまいます。
またLMSが使えない時に進捗や過去の記録を見ることができないと言うのも困ります。データバックアップは必ず定期的に行えるようにしておく必要があるでしょう。
データを定期的に2カ所以上に保存するという運用ができるようにするためには様々な手段が考えられますが、一番気軽なのはクラウドストレージサービスを契約して、手動で定期的にバックアップすることです。専門家に頼めば、自動でデータを日々バックアップするような仕組みを構築することもできますが、まずは、一カ所だけにデータが集中管理している状況を脱却するために、クラウドストレージサービスを契約しておくのが良いでしょう。
有名なクラウドストレージサービスは下記のようなものがあります。
サービス名 | 特徴 |
Google Drive | Chrome OSと相性が良いGoogleのサービス。無料でも一人当たり5GBまで使えるが、バックアップに使うなら有料版にした方が良い。 |
Microsoft OneDrive | Microsoftのサービスで、LMS含めて一連の流れで使いやすい。無料でも5GBまで使える。 |
Amazon Web Service S3 / Glacier | カスタマイズ性が高く、料金も容量に応じてなので利用料は圧倒的に安く済む反面、利用の難易度は高く、専門家の助けが必要。 |
DropBox | 老舗のサービス。パソコンのフォルダと自動的に同期してバックアップしてくれるなど充実している。 |
Box | ビジネス向けのサービスのためセキュリティ、権限等のバランスはとても良い。 |
Secure SAMBA | セキュリティが高いことを売りにしているビジネス向けストレージ。 |
今ホットな話題ですね。つい最近、大手のサービスでも情報漏洩が起きて問題になったばかりです。安全なサービスを選ぶと言うことももちろんですが、学校現場のセキュリティは一般のビジネス世界に大きく遅れをとっていることの一つで、私としては非常に懸念をしている分野でもあります。
情報漏洩事件はこのIT/ICT社会において後を断ちません。JNSA(日本セキュリティネットワーク協会)の報告によると、情報漏洩事件の8割は人が引き起こしており、不正アクセスやソフトウェアの脆弱性によるものに比べて圧倒的に多いことがわかります。
(参考: https://www.jnsa.org/result/incident/2018.html )
特に私が学校現場において懸念しているのは、多くの学校で、生徒の方がITリテラシーが高いことがままあると言うことです。そう言う状況にも関わらず、パスワードを全員一律で運用するようなところも見受けられるようですが、生徒が悪意を持ってアクセスして他の生徒の成績やテストの結果を見ることが簡単にできてしまい、いじめの助長の原因になったりしないかと不安を覚えます。
ソフトウェアやシステムを提供する側だけでなく、日々運用して利用する一人一人がセキュリティを心がける必要があるのです。
少なくとも下記の項目は運用主体である学校が気をつけるようにして欲しいと考えています。
これらの気をつけるべきことに加えて、IDやパスワードが万一他の人に漏れてしまった場合に一定の効果があるのがVPN(バーチャルプライベートネットワーク)の構築と、それによるアクセス制限です。
VPNを構築して、学校経由で提供するサービスへは学校のVPNからしかアクセスできないように制限をかければ、例えIDやパスワードが漏洩したとしても、VPNに接続できない人が外から不正にアクセスすることができなくなり、セキュリティに対して何もしないより格段に安全性が高まります。
簡単に利用できる安価なサービスもあれば、Amazon Web Service, Microsoft Azureなどでリーズナブルに構築する方法もあり、最も費用はかかりますが学校にサーバーをおいて独自に構築する方法もあります。
方法 | 初期コスト | セキュリティ | 備考 |
VPNサービス | 低 | 中 | さくらインターネットなど。初期は安いが一人当たりの利用費用はかかり続け、人数に応じて高額になる。 |
クラウド | 中 | 中の上 | Amazon、Microsoftなど。構築には専門知識が必要で、構築初期投資が必要だがよりセキュアにしやすい。人数に応じての料金でなく、通信量に応じてなので一人当たりの運用費はVPNサービスより安くできる可能性がある。 |
独自構築 | 高 | 上 | サーバを購入して学校に設置する必要があり、構築も専門知識が必要なため初期は高額だが人数に応じた料金はかからない。 |
統合LMSを導入したはいいがどのように生徒と相互コミュニケーションをとるかと言うことに悩みを抱えている学校は多いようです。
学校と言う「場」の大きなメリットの一つとして、「対面でやらせることができる」と言うことがありますが、コミュニケーションによる強制力が低い限り、ICTの導入はかえって、習慣が身についている生徒とそうでない生徒の成績格差を広げるだけの結果になってしまいます。
多くのLMSでは、コミュニケーション手段としてメール通知やアプリ通知を利用していますが、「確実に読む」「読んだ後にアクションしてくれる」と言う点においてはこれだけでは全く不十分です。
メールは今やコミュニケーションの手段と言うには開封率が低い傾向が強く、特に若い世代ほどメールはきても読まない傾向にあります。
アプリ通知は、スマートフォンやタブレットを使いこなしている人ほどいろいろなアプリを入れているため、目立たなくなってしまって通知に気づかない人が多数出てくるでしょう。
そこで、LINEやFacebookなどのメッセンジャー、SMS一斉送信サービスの導入など拡張的なコミュニケーション手段をいくつか用意しておくことをお勧めしています。
LINEグループやFacebookグループで用意することもできますが、ソーシャルを安全上許容しないのであれば、SMS一斉送信サービスなら安価に導入できるところがほとんどで、1メッセージあたり数円と運用費用も比較的安くすみます。何よりもSMSは昨今では逆に読んでもらいやすい、返信しやすいと言うこともありますのでお勧めです。
今回は5つの分野において、ICT環境強化のためにできることをご紹介しました。しかし、ツールやサービスを導入したからと言って、うまく運用できる、活用しきれるとは限りません。大切なのはあくまで、現場の皆様が活用しやすいように、日々の運用の中に少しずつでも体制を取り入れていくことであり、ドラスティックにやれと言われても混乱してしまいます。
大切なのはLMSを一つ導入してインターネット環境が整うことではなく、それを活用して生徒により良い学習環境を提供できることのはずです。
そのために、意識していただきたいのは、学習コミュニケーションのあるべき姿を可視化して、先生全員で共有していただきたいと言うことです。Yes/No分岐のフローチャートなどを作っておくなどは良い方法です。
チャートを作ってみると普段の教室ならやれるかもしれないこと、例えば隣の子にそっと聞くなどが遠隔だとできないことなど、離れていたりその場でないことによるコミュニケーションの欠損可能性も見えてきます。こういったことは、ICTを活用すれば、リアルタイムで投票システムを使って同じ質問をまとめて受けてまとめて説明するなどの効率化が可能なことも見えてきます。
LMSもネットワークもあくまでツールに過ぎません。一つ一つの学校が理想とする教育理念の元で、必要な学習のためのコミュニケーションがどんな姿か?そして、その学習コミュニケーションの中でLMSやその他のツールがどの部分で活用されるのかと言うことを教員の方々それぞれが明確に意識できるようにしていただくことを願います。
BeeComb Grid株式会社
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BeeComb Grid株式会社
代表取締役 中島正成